Column コラム

Vol.17【大切な従業員を守るカスタマーハラスメント対策と人材対策 / IT分野の人材不足に伴うリスク】

今回のコラムでは、以下のラインナップでお送りいたします。


大切な従業員を守るカスタマーハラスメント対策と人材対策

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客や取引先から理不尽な要求・悪質な嫌がらせを受けることです。2020年に厚生労働省が行った「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、労働者の15%が過去3年間にカスハラを経験しており、件数はセクハラを上回っています。労働者からの相談を受けてカスハラに該当すると判断した事案があったと回答した企業は92.7%にも上ります。
カスハラに該当する事案とは何か、カスハラが企業に与える影響とその対処法について、弊社顧問である西岡敏成氏に話をうかがいました。
※本内容は、西岡氏へのインタビューを基に再編集したものです。

1:カスタマーハラスメントに該当する事案とは

|1.クレームとの違いクレームと一口に言っても正当なものと不当なものが存在し、すべてのクレームをカスハラだと決めつけることは適切ではありません。正当なクレームは商品への意見や欠陥の指摘であり、これはサービスや商品の品質向上・新規開発に大きく貢献します。クレームを受けた際にはまず、正当なものか不当なものかを判断する必要があり、その境界線がどこなのかをきちんと理解しておくことが重要です。以下の項目を総合的に考慮し、社会通念を度外視した要求だと判断される場合はカスハラとして注意して対応すべきです。

・相手の文言(脅し口調など)
・場所(自分の陣地に呼び出すなど)
・時間(営業時間外まで居座る、電話を切らないなど)
・内容(過度な金銭を要求する、土下座を強要するなど)
・経緯(クレームに至るまでに、商品や従業員に不備が見られないなど)

繰り返しですが、クレームはすべて悪いものではなく、正当なものと不当なものがあることを理解し、社会通念を考慮してカスタマーハラスメントかどうかを判断し、適切な対応を行うことが求められます。

|2.カスタマーハラスメントの類型
カスハラは、迷惑行為の違いによって下記のように分類されます。

出典参考:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」

2:カスタマーハラスメントがもたらすリスク

カスハラは従業員だけではなく、企業が組織全体で対策を講じるべき問題です。適切な対応がなされない場合、従業員はストレスや不安を感じ休職や離職に追い込まれるような状況にもつながります。対策が不十分なままでは、従業員のケアが疎かになり、人材流出がおこる恐れもあります。そうすれば人材不足や業績低下にも繋がることになり、こうした面からも企業としてカスハラを見過ごすわけにはいきません。そもそも労働契約法第5条で定められた「安全配慮義務」を果たすことが企業の義務であり、怠れば訴訟リスクもあります。
放置した結果、SNSやインターネット上に会社への不満や誹謗中傷が書き込まれることになれば、企業の評判にも深刻な悪影響を与えることがあります。顧客が離れるだけでなく、新規人材の獲得が困難になることも懸念されます。このようなリスクに対処するためには、事前の対策が重要です。

3:カスタマーハラスメント対応の基本方針

カスハラへの対応は初動が非常に重要です。適切な初期対応ができないと、その後の対応も玉突きで遅れる事で被害の拡大に繋がってしまします。初期対応時には、企業と顧客が50:50の対等な立場であるという意識を持ち、以下の方針に基づいて対応することが求められます。相手の高圧的な態度に左右されず、主導権を失わないことがポイントです。

1. 対応の行動履歴は記録を取る。
2. 感情的にはならず、誠意を持って冷静に対応する。
3. まずは不便をかけたことに謝罪し、相手の話は遮らない。
4. 顧客対応は基本的に窓口が一貫して行い、たらい回しにはしない。
5. 窓口の他に記録担当をつけ、記録担当は会話に口出ししない。
6. 対応後は必ず上司に報告し、警察や弁護士などの外部とも連携しておく。

LINEUP2では、企業として行うべきカスハラ対策を詳しく解説します。


カスタマーハラスメントへの対策

LINEUP1では、カスタマーハラスメントの概要、リスク、および対応の基本方針を見てきました。ここでは、企業が適切な対応を行うために講じるべき対策について、様々な面から検討していきます。

1:マニュアルを作成する

マニュアルの作成は、顧客対応の品質保持・判断基準の明確化のために重要な取り組みです。例外的な事案が発生した際にも判断の参考にすることができ、ノウハウやナレッジの蓄積に役立つツールとなります。
|1.実際の対応手順
顧客対応においては、適切な体制(例えば、窓口担当1人、記録担当1人など)を整え、対応時に必要なもの(録音機器や製品マニュアルなど)を用意することが大切です。「他の業務もあるため、〇時間まで対応させていただきます。」と事前に伝えてから対応を開始し、電話での対応の場合は、要求が十分に伝わったと判断した時点で適切に話を終えるなど、長時間の拘束を避ける具体的な手順を記載しておくことが有効な対策となります。
さらに、顧客の状況を正確に把握するために、確認事項や質問項目を事前に整理しておくことで、顧客の目的を明確にし、効果的な対応が可能となる手助けとなります。

|2.外部に相談する判断基準
カスハラは場合によっては犯罪行為にも該当するため、企業は警察や弁護士といった外部の専門家と連携を取る事が重要です。どのような態度や要求がカスハラに該当するのか、また外部への相談が必要となる基準を明確に設定しておくことが求められます。例えば、レッドカードやイエローカードのような具体的な基準を設け、具体例を示すことで、対応が容易になります。

【レッドカード】このような言動が見られたらすぐに相談する。
・慰謝料などの金銭を要求。
・暴力団に言うぞと脅迫される。
・外部に呼び出され、軟禁状態にされる。

【イエローカード】このような言動が3つ以上見られたら相談する。
・社長を出せ、マスコミに拡散すると言われた。
・覚書や誠意の要求。
・説明を聞かない、居座って動かない。

2:法的知識をつける

どのような行為が犯罪行為に該当するのか理解するために、従業員に基本的な法的知識を身につけさせることが重要です。特に顧客と直接接触対応する従業員には、研修を必須とすることで迅速な対応が可能となります。更に「これ以上の行為は〇〇罪になります。」と伝えることで、要求がエスカレートすることを抑止できます。
※ 以下の行為は犯罪に抵触する可能性があります。

・胸元を握られた:暴行罪
・突き飛ばされてケガをした:傷害罪
・土下座しろと言われた:強要罪
・帰ろうとしない:不退去罪

3:証拠保全を行う

警察や弁護士に相談する際や裁判に備えて、顧客対応の行動は証拠として全て記録することが重要です。これには、会話の録音や記録担当が書いたメモ、メールのやり取りも含まれます。

さらに、目撃者を確保するために、顧客対応は複数人で実施することが望ましいです。そして、暴行のリスクも考慮し、カメラがある場所で対応を行います。顧客からの要求があっても、証拠保全ができない外部で問題解決を試みることは避けましょう。

4:従業員のフォロー体制を整える

カスハラによる人材流出を防ぎ、安全配慮義務遂行のために、企業はマニュアルの整備と共に従業員のサポート体制を整えることが重要です。企業トップは現場を考慮し、意識的に体制を整備していくべきと考えます。

事前の予防対応をしてもなお、従業員がカスハラによって精神的なダメージを受けた場合、休職に追い込まれる可能性はあります。企業は休職手当や給料保証制度を整え、復帰までのプロセスを明確にするなど、安心して業務に従事できる環境を提供する必要があります。休職中の従業員に対して担当者が連絡を取り、状況に応じた配置転換を行うことも考慮しましょう。また上司やカウンセラーによる相談窓口を設けるなど、休職に至る前にできる対策もあります。
従業員のケアを休職前から復帰後まで一連して行うことで、結果としてその先に続く離職も防ぐことができます。

5:まとめ

カスタマーハラスメントは従業員に大きな負担をもたらし、適切な対策が講じられなければ人材流出や企業価値の低下に繋がります。顧客からのクレームは特に現場において正当か不当かの判断が難しいため、適切な対応策を立てるには、判断基準を事前に企業として明確にしておくことが必要です。
対応マニュアルの作成により手順や判断基準を明示し、法的知識の習得や従業員へのサポート体制の整備など、従業員のケアにも努めましょう。
カスハラは完全に根絶することは難しいものですが、企業として十分な対策を検討し、実施することが求められます。今一度、自社の対策が十分であるか見直してみることをお勧めします。


IT分野の人材不足に伴うリスク

各所で叫ばれる人材不足。中でもIT業界での人材不足は深刻であり、経済産業省が2019年に公表した「IT人材需給に関する調査」では、2030年には約79万人ものIT人材が不足するという試算が出されています。これを受けて政府では、2026年度末までに230万人の人材を育成することを目指す「デジタル田園都市国家構想基本方針」が閣議決定され、東京23区内の大学において、デジタル系の学部・学科に限り、定員上限の規制を緩和する方針を固めました。
多くの企業が課題に感じている人材不足について、引き続き顧問西岡にお話をうかがいます。

1:これから必要となる“IT人材”とは

IT人材が不足の現状では、単に専門的な知識やスキルを持つエンジニアだけでなく、市場のニーズを見極める分析力や組織運営におけるマネジメント能力を兼ね備えた人材も求められている状況です。今後は、自身の専門知識やスキルを様々な状況で活用できる柔軟な人材が重要です。

2:人材不足によって生じる問題

人材不足は企業の組織力や業績に直接影響し、競争力を低下させるリスクがあります。従業員への負担が増えることで離職率が上昇し、情報漏洩のリスクも高まることが懸念されます。

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が行った「企業における営業秘密管理に関する実態調査2020」では、情報漏洩のルートの中で「中途退職者による漏洩」が主要な原因となっており、これは企業の信頼を損ねる社会問題へと発展する可能性があります。

3:人材確保のために取り組むべきこととは

IT人材を確保するためには、採用活動で新しい人材を獲得するだけだはなく、すでに在籍している従業員をどう育成するか、いかに定着させるかが肝要です。

|1.外部からの獲得と社内での育成を両立する仕組みづくり
人材確保のためには、外部獲得と社内育成の両立が重要です。企業は自社の業種や業務に合った大学と連携し、インターンシップなどで新卒社員候補と繋がる取り組みが必要です。また専門職への適切な報酬を提供することで、求職者に魅力を与えることも1つのアプローチ方法です。
また、在籍社員の教育制度も重要で、研修やキャリアアップ制度を導入し、スキルアップに応じた報酬を検討することが求められます。

|2.人材と情報を流出させない対策
働く環境は従業員の幸福度に影響し、跳ね返ってきます。獲得した人材を定着させるためには、福利厚生や労働環境を充実させ、従業員が会社を居場所だと感じられることが大切です。
特に意識すべきなのは、会社の風土です。言いたいことを遮られる、否定されるといった雰囲気は、従業員のモチベーションを大きく低下させます。どんな意見も傾聴し、対話で互いを理解していくような懐の深さを示しましょう。
また、人材流出の対策として健康経営の促進も挙げられます。健康経営は企業が主導して従業員の健康や心身のバランスの維持を目的として行う経営戦略です。厚生労働省が行う健康経営優良法人認定制度により認定された企業は令和3年時点で約1万5000社に上ります。健康経営の取り組みとして健康診断の義務化や健康関連教育の実施などがあります。このような取り組みを踏まえて職場環境づくりを行いましょう。
|3.安心して働ける職場つくり
安心して働ける職場環境を整備することで従業員の離職率が低くなる傾向があります。従業員が健康的な状態で働くことによりストレスを感じる回数が減り、結果として定着率の向上が見込めます。

一方で、離職率を0にすることは非常に難しいため、離職後の情報漏洩にも対策を立てておくことが必要です。対策として情報の持ち出しを監視するシステムの導入や、情報へのアクセス制限を設けることが効果的です。また、入社時に機密情報に関する規則を説明し、情報漏洩時には賠償責任などが発生する旨を記した誓約書に署名させる取り組みも効果的です。

4:まとめ

自社に必要な人材を確保するためには、外部からの人材獲得と社内の人材育成の両面からアプローチすることが重要です。加えて、中途退職者による情報漏洩が企業にもたらすリスクは甚大であるため、育成した人材を定着させる取り組み、離職後の情報漏洩を防止する取り組みも行う必要があります。今後ますます深刻になると想定される人材不足に対応するために、今からできる対策を講じていきましょう。

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