今回のコラムでは、意外と知られていない反社会勢力の罠についてや、世間で話題となっている直近の事件について、危機管理のプロ目線で解説を行います。
自社での危機管理対策のご検討にお役立ていただけましたら幸いです。
■カスタマーや取引先からの過剰な要求に現場が疲弊している
■ステークホルダーに反社会勢力との関係性がないか、しっかりチェックしておきたい
■不測の事態に対する対処方法や予防対策・体制を導入したい
《もくじ》
│1 プロ目線での対策ポイント【今回の結論】
│2 狡猾に近づいてくる反社会的勢力
│3 反社会的勢力との関係への代償
│4 話題の事件から読み解く危機管理
1 プロ目線での対策ポイント【今回の結論】
危機管理のプロから見た場合、事後対応の謝罪や釈明を行う際に押さえておきたいポイントは、以下の3つです。
①起こった事実は変えられない
②誤魔化し・隠ぺいはNG、誠意を込めた説明を
③事前の対策と「当事者意識の改革」がカギ
それぞれについて、以下で詳しく解説いたします。
2 狡猾に近づいてくる反社会的勢力
反社会的勢力と聞いて、どのようなイメージをお持ちでしょうか。
「自分とは関係のない遠い存在」
彼らは、そうした認識の方を狙っています。
最新の手口では、いきなり暴力団の構成員が直接アプローチしてくることはありません。
反社会的勢力と繋がりを持ちながらも、自分自身は該当しない、そんな「グレーゾーン」の人間が近づいてきます。
さらに、質の悪いことに、彼らはまるで”資産家”のように振る舞い、資金援助の手を差し伸べてきます。
そこから、反社会的勢力との関係が徐々に深まっていくのです。
一番厄介なのは、「グレーゾーン」の人間はチェック・照合をかけても、反社会的勢力の人間ではないため、見つけ出すことが困難です。
構造として、事前に精査することが非常に難しい形になっています。
3 反社会的勢力との関係への代償
もし、反社会的勢力と関係を持ってしまった場合、具体的にどのような影響が出るのでしょうか。
以下のような実例があります。
影響①:倒産
公共案件を手掛ける企業であり、指名停止措置を受けたため倒産。
なお、業界を問わず、反社会的勢力の排除を掲げている企業がほとんどのため、取引停止・売上先の確保が困難となる。
影響②:従業員の転職先が見つからない
氏名が公表された経営陣以外にも、反社会的勢力と関わっていた企業に在籍していただけで、転職応募先から不採用となったケースも。
※参考事例:株式会社九設 2021年5月 破産申請(福岡県民新聞より)
反社会的勢力の手口は狡猾さを増し、事前の見極めが非常に難しくなっています。
もし関わりを持ってしまった場合には、事業の継続が難しくなるばかりでなく、従業員や多くのステークホルダーに影響が出てきます。
しかし、予め事後対応策をいくつも想定し、迅速かつポイントを押さえた内容で行うことによって、被害を最小限に抑えることが可能となります。
4 話題の事件から読み解く危機管理
ここでは、話題になっている事件の事後対応に対して、危機管理のプロ目線から読み解いていきます。
【事件概要】
・コーチによる生徒への暴行動画が拡散
・部員のみによる謝罪動画が公開
・動画拡散から5日後、監督がテレビで謝罪
一方で、動画を拡散したとされる部員への責任追求音声が拡散
・動画拡散から2週間後、保護者への説明会・記者会見
・暴行の対象には、入学予定の中学3年生も含まれていた
入学していないため、転校手続きが出来ず、対応調整中
【発生要因と思われるもの】
暴行動画が拡散されなければ、暴行は未だに続いていたものと思われます。
進学校は偏差値や有名大学への入学実績を追い求め、運動部は大会での成績を追い求め、学校としての成果主義・成果による保護者の評価が行き過ぎたのではないでしょうか。
これだけ日常的に暴力が行われていた事実を、他の教員含め学校側が認識していなかったとは考えにくく、それでも上記のような一定の成果を出しているため、「良し」とされ続けていたことが最大の原因だと思われます。
【事件概要】
・26人の乗客の内、14名が死亡・12名が行方不明
・当日は天候が悪く、時期的にも水温がまだ低いかったため、他の船は出航を控えていた
・人員整理を行った関係で、操船の技術不足や整備不良の可能性など不安因子は他にも存在していた
・事件発生から5日目に社長が謝罪会見を行う事故に対する自身・自社の責任を認識していない釈明が目立った
・影響は全国に波及し、GWの遊覧船キャンセルが相次いだ
【発生要因と思われるもの】
人員整理を行ったことからもわかるように、経営難というのが最大の要因だと思われます。
資金繰りの厳しさから、操船技術不足の人員でも雇わざるを得なかったのではないでしょうか。
同様に、他社が運航を見送りしている状況でも、目先の売上確保のため、出航せざるを得なかったのではないかと想像されます。
さらに、謝罪会見の内容も合わせて考えると、今回の件は、経営陣の実力不足が招いた”人災”という捉え方もできるかもしれません。
危機管理のプロから見た、事後対応の基本とは
事件を起こした際に一番大切なことは、関係者への事後対応に他ありません。
特に、報道機関は「社会の窓」であり、対応のスピードや内容によって企業の姿勢が評価されます。
また、知床の事件のように、誰が書いたかわからないコメントを発表することは不信感を買います。
加えて、終始下を向いたまま原稿をただ読み上げるような説明では、謝罪の気持ちは伝わりにくいでしょう。
今回、両事件において、取るべきだった対応は
①トップが、可能な限り早急に会見を開く
②起こった事実を正直に、誠意を持って説明する
③これからの対応を、出来るだけ具体的に提示する
の3点が言えるでしょう。
上記は、当たり前のことではあります。
しかし、いざ自分自身がその立場に置かれると、普段の備えがなければ、頭では分かっていても、誰もが同じような対応をしてしまうのが現実です。
仮に起きてしまっても、被害を最小限に抑えるのが危機管理であり、未然に防ぐ予防の仕組みと、事後の対応策を複数想定しておくこと。
こうした「凡事徹底」の姿勢こそが、万が一のときに大きな差を生むのです。
そして、1%でも起こる可能性がある不測の事態には、徹底的に調べて対策すること。
発生する確率とリスクをしっかり見据えた上での対策が必要となります。
ただ、こうした考え方は危機管理に限ったことでなく、ビジネスにも共通することと言えるのではないでしょうか。
嘘・誤魔化し・隠ぺいなどによる不信感は、事態を長期化・拡大化させ、収束を困難にさせるばかりです。
今回の事件に共通して言えることは、以下の2つです。
・危機管理意識の希薄な状態が常態化してしまったこと
・不測の事態が起こった際の対応を全く考えていなかったこと
危機管理意識を高めるためには、企業や組織全体、一人ひとりが当事者意識を持つことが非常に重要です。
今一度、自社における予防対策やチェック体制を整えるとともに、起こってしまった場合の対処方法をしっかり準備しておきたいですね。
今回のコラムは、以下の顧問の方にご監修いただきました。
西岡 敏成
・元兵庫県警警視長
・警備・公安・刑事に従事
・2002年日韓W杯警備を指揮後、姫路警察署長・播磨方面本部長を歴任
・元関西国際大学人間科学部教授
櫻井 裕一
・元警視庁警視 組対四課管理官
・機動捜査隊、新宿署組対課長、警察庁広域技能指導官として全国の暴力団担当捜査員に捜査技能を指導
・STeam Research & Consulting 株式会社 代表