今回のコラムでは、関連法案が改正されたパワーハラスメントや、女性活躍推進法と関連したセクシャルハラスメントなど、ハラスメント対策について特集していきます。
危機管理のプロ目線でのアドバイスも交えながら、自社でのご対策にお役立ていただけましたら幸いです。
■ 何から手を付けていいかわからない方
■ 自社に最適な対応方法を知りたい方
■ 最先端の予防策や対処方法の準備を検討している方
《もくじ》
│1 プロ目線での対策ポイント【今回の結論】
│2 法改正の概要
│3 プロの視点
│4 何をすればよいのか
│5 事例
1 プロ目線での対策ポイント【今回の結論】
危機管理のプロから見た場合、今回の法改正に伴うハラスメント対策についてのポイントは、以下の3つです。
①ハラスメント対策チームには、役員以上の人材を配置
②危機管理こそトップの仕事
③相談窓口は外部設置を推奨
後ほど、それぞれについて詳しく解説いたします。
2 法改正の概要
ポイントの解説に入る前に、今回の法改正における要点をおさらいします。
特に用語については、混合される場合も多いので、しっかり理解しておくと認識の齟齬によるトラブルなどは未然に防ぐことが可能です。
総称の呼び分け
・既存の法律である「労働施策総合推進法」に改正
→法改正の総称「パワハラ防止法」
・男女雇用機会均等法などの他の法律も合わせて改正
→セクハラやマタハラなども含めたハラスメントへの対応強化
関連する複数の法律の改正を含めた総称が「パワハラ防止関連法」
対象
・パワハラ防止法
中小企業(資本金3億円以下または社員数300人以下の企業)も対象に変更
※大企業向けは、2020年6月から施行済
・女性活躍推進法
一般事業主行動計画の策定義務
常用労働者301人以上の事業主→101人以上の事業主に拡大
3 プロの視点
ここからは、いよいよ危機管理のプロから見たポイントの解説に入っていきます。
①相談窓口は外部での設置を推奨
相談窓口の設置自体は義務化されているため、必須の対応となります。
ただ、「義務化されているから設置する」に留まらず、設置しないとどのようなことになるか今一度考えてみたいと思います。
相談窓口がないというのは、言ってみれば自動車で事故を起こしてしまった際に、そのまま逃走する「当て逃げ」のようなものです。
事故は起こさないに越したことはないですが、実際に起きてしまった後はいかに迅速に、適切な対処を行うかがカギとなります。
相談者の保護の観点からも、相談窓口担当者の負担を軽減するためにも、外部相談窓口の有効性が挙げられます。
初期のヒアリング段階で、第三者の立場で客観的な事実を把握できること。
そうした正確な情報に基づいて、社内の対策チームと連携して対処を行うことが理想的と言えます。
② 対策チームに権限を有する役員以上の役職者を最低1人は入れる
事故が起こった後の対応が事態を収束させるか、さらなる被害に繋がるかの分かれ道となります。
企業全体に影響が及ぶため、ハラスメント対策チームには経営層のメンバーを入れるとよいでしょう。
役員以上の役職者が対策チームに参加することによって、権限が必要な判断や対応も、スピード感を持って実行可能となります。
逆に、対策チームに経営陣が不在の場合、担当者では解決しきれず社内の別な人間に情報を漏らす可能性や、それによる社内での人間関係の悪化に繋がるリスクが発生します。
③ 危機管理こそトップの仕事
危機管理は、利益や生産性向上に繋がらないと思われて、後回しにされがちです。
また、「自社には関係ないから大丈夫」と考えている経営者が多いのも事実。
しかし、「他社もやっていないから自社も必要ない」という姿勢では、いざ問題が起こった際に、不用意に被害が大きくなってしまいます。
企業のトップとして、普段の予防対策や事後対応の良し悪しが、経営に深刻なダメージを与えること。
そのことを肝に銘じて、トップ自らが理念を掲げてリーダーシップを発揮する必要があります。
例えば、事実確認が不十分なまま、ハラスメントを受けた側を解雇した場合、当該社員が組合に加入した上で、損害賠償請求を行うこともあります。
その場合、内容によっては、刑事罰や民事罰(民事訴訟)、さらには行政罰を受ける可能性があるのです。
実際に、2019年度のコンプライアンス違反による倒産件数は実に200件超にも上りました。
(帝国データバンクの調査より)
不測の事態が起きる前提で、トップが先陣を切って危機管理に取り組む時代になってきていると言い換えられます。
起きることをいかに未然に防ぐか、そして、起きてしまったものはいかに適切に対処するか。
経営に与えるダメージ(損害)を最小限度に抑えられるマネジメントが必要であり、それこそが「危機管理」と言えるのではないでしょうか。
4 何をすればよいのか
では、ここまでの内容を踏まえて、具体的に行うべきことをまとめます。
■ トップ自らがハラスメント防止の徹底を行う
■ 起こり得る事象を洗い出し、それぞれの具体的な対策方法を決める
■ HPや企業理念などに危機管理のガイドラインを明記する
■ 就業規則に反映する
以上が、危機管理に最低限必要なこととなります。
5 事例
◆メイコウアドヴァンス事件(平成26年判決)
日常的な暴行やパワハラ、退職勧奨等を受けたことが原因で自殺。
【判決】
被告会社及び会社役員1名に対し、合計5,400万円余りの損害賠償を命じた。
◆大裕事件(平成26年判決)
休職期間の満了により自然退職の通知を受けた。
上司のパワハラによる適応障害が原因として、損害賠償を請求。
【判決】
上司のパワーハラスメントを一部認定し、パワハラと適応障害における因果関係を肯定。
賃金請求を全額の支払いを命じ、慰謝料については原告請求額の一部の支払いを命じた。
◆海遊館事件(平成27年判決)
セクハラの加害者が会社による懲戒処分(出勤停止)を不服として訴えた。
【判決】
会社の懲戒処分等は有効であるとして、加害者の訴えを退けた。
被害者が拒否の態度を明示しないことを、許容されていると誤信してセクハラ行為がエスカレートしていったという判断がされた事件。
当事者の「ここまでは大丈夫」というラインが、いかに主観的かが浮き彫りになった。
いずれの事例も、比較的最近の判例とは思えないような内容で当時のパワハラ・セクハラ発言が克明に記録されています。
※一言一句明記されていることもあり、詳細は割愛いたしました。
今一度、予防体制をしっかりと構築するとともに、起こってしまった場合の対応方法をしっかり準備しておきたいですね。
今回のコラムは、以下の顧問の方にご監修いただきました。
西岡 敏成
・元兵庫県警警視長
・警備・公安・刑事に従事
・2002年日韓W杯警備を指揮後、姫路警察署長・播磨方面本部長を歴任
・元関西国際大学人間科学部教授
また、ジェイエスティーには、危機管理エキスパートが複数在籍しております。
ハラスメント関連の法改正対応はもちろん、個人情報保護や暴対法対策など、危機管理全般のご相談はジェイエスティーまで。